« FRANK LLOYD WRIGHT, LOUIS SULLIVAN AND THE SKYCRAPER, DONALD HOFFMANN, DOVER PUBLICATIONS, INC. Mineola, New York, 1998 | トップページ | ジョン・ラスキン『ヴェネツィアの石、建築・装飾とゴシック精神』内藤史朗訳、法蔵館、2006年 »

2012年12月 2日 (日)

ジョン・ラスキンの「ピクチャレスク」

1

(4)
picturesqueが原語。たとえば、ミケランジェロの絵画には、崇高な要素が取り入れられ、これはたんに表現上の美しさを狙った画家の絵画よりも優勢であるとする考え方。その分だけ後者の画家よりもピクチャレスクということになる。このように付随的要素としての崇高さが、表現的な美しさと識別される。それが『ピクチャレスク』という用語のラスキン的意味なのである(ラスキン著・杉山真紀子訳、『建築の七燈』鹿島出版社、「六章、記憶の燈」XII参照)。一九世紀産業革命による自然破壊の進行に対して、この語の流行は一定の役割を果たしたが、その限界をも示した。なお、Stones of Venice Vol.III(原著)III章三五節にも、「ピクチャレスク」の説明があるが、今度は「グロテスク」との識別として述べられている。崇高さを「ピクチャレスク」の付随的要素とする点で、『建築の七燈』の右の説明と同様である。崇高さが自然の中に見つけられる美しさの要素であるとして山小屋の屋根の例を挙げている。スレート板で葺かれた屋根よりも、頁岩(泥板岩)で葺かれた屋根の方が「ピクチャレスク」であると言う。それは、頁岩の方が自然の山岳風景に似合っていて、自然に溶け込んで見えるからである。なお、自然の崇高さについては、『近代画家論』の原著IV巻に詳しいが、訳書『近代画家論』(法蔵館版)はIII巻まで既刊だが、IV巻は未刊」。


(10) picturesqueが原語。注(4)でも説明しているが、人工に対立する「朽ちる」自然に、崇高さや奥深さを見たのであろう。本書第五章で「良い色彩」に対立して「派手な色彩」をラスキンは挙げたが、このように対立させる見方は、産業革命とそれに続く人間疎外と言う弊害を批判していたラスキンが、独創的に育んだ思想・信条から出てくる見方であって、同様にして「良い色彩」は「ピクチャレスク」とするのも、彼の感性・思想・信条から出てくるものなのである。 
 
最近の論文に見られる「ピクチャレスク」論を紹介し、あわせてラスキンとの相違を明らかにしよう。主として一八世紀の「ピクチャレスク」を論じて、大河内昌氏は「崇高とピクチャレスク」(岩波講座「文学」第七巻『つくられた自然』所収論文)を書いたが、この論文では一九世紀のラスキンについての言及は無い。大河内論文によれば、「ピクチャレスク」は「構図」の中で画家は見る人を楽しませるため、「さまざまな要素の対象や組み合わせを仕組む」。また、「画家が自然を対象とする場合には、いかなる人間的な枠組からも溢れ出てゆく崇高なものに目を向けることを放棄し、かぎられた枠内で視覚的自然を素材とした構図を組み立てる」。したがって、「ピクチャレスクは可視性に還元できない伝統や慣習を排除することで、純粋に形式的、表面的なものだけを美的な要素として取り出そうとする」。こうして、「ピクチャレスクが道徳性や精神性の問題を忌避する姿勢につながってゆく」。 

 しかし、ラスキンは「構図」「構成」から「構想」「構想力」へと思考の対象を進めたのである。たんに可視性、視覚性の狭い領域を対象とするのではなく、想像力の領域まで対象が広げられたのである。したがって、こうした「構想力」は、たんなる「構図」「構成」と異なり、モラル性、精神性と深くかかわるのである。」


内藤史朗、ジョン・ラスキン『ヴェネツィアの石、建築装飾とゴシック精神』法蔵館、2006、第六章での注、343-345頁

|

« FRANK LLOYD WRIGHT, LOUIS SULLIVAN AND THE SKYCRAPER, DONALD HOFFMANN, DOVER PUBLICATIONS, INC. Mineola, New York, 1998 | トップページ | ジョン・ラスキン『ヴェネツィアの石、建築・装飾とゴシック精神』内藤史朗訳、法蔵館、2006年 »

コメント

お久しぶりです。

ぼくは、ジョン・ケージという人は、芸の道と人の道が一致するところを探求した人だと思っていまして、ラスキンやモリスは、それとは区別される「美的な生活」を追究した人達だと思っていました。
しかし、そんなに単純なことではないのですね。

勉強になりました☆

投稿: 加ッ田鳥屋 | 2012年12月 3日 (月) 20時01分

ご無沙汰しています。ラスキンは色々な側面がありますよね、影響も大きいですし。18世紀のエドマンド・バーク、19世紀のジョン・ラスキンか、という感じで。ではまた。

投稿: madhut | 2012年12月 4日 (火) 12時30分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1331394/48057875

この記事へのトラックバック一覧です: ジョン・ラスキンの「ピクチャレスク」:

« FRANK LLOYD WRIGHT, LOUIS SULLIVAN AND THE SKYCRAPER, DONALD HOFFMANN, DOVER PUBLICATIONS, INC. Mineola, New York, 1998 | トップページ | ジョン・ラスキン『ヴェネツィアの石、建築・装飾とゴシック精神』内藤史朗訳、法蔵館、2006年 »