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2013年10月14日 (月)

ルイス・マンフォード『褐色の三十年、アメリカ近代芸術の黎明』富岡義人訳 鹿島出版会 2013

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訳者の富岡義人氏よりご恵贈あずかりました。有難うございます。

こちら(http://rco-2.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/towards-modern-.html)でも触れた書の全訳です。

全体は、四章からなり、第一章は著者が「褐色の30年」と呼ぶ時代の概観とその時代の芸術について述べた章、第二章はランドスケープについて述べた章、第三章は「近代建築へ向かって」という私も要約した章、そして第四章は主に絵画や写真について触れていく章です。

帯にも書かれているように原書はルイス・マンフォードの出世作でありかつまた代表作の一つでもあり、さらにはそれまで漫然と記述されてきたアメリカ芸術史に一つのコンセプチュアルな骨格を与えた、最初の書であると言えます。

著者が「褐色の30年」と呼ぶ時代は南北戦争後の約30年のことで、これは「金ピカ時代(The Gilded Age)」ともほぼ重なり、またアメリカン・ルネサンス(1970-1938)の前半ともだいたい重なり合う時代です。

この時代、アメリカの資本主義と都市文化は飛躍的に発展したことがよく知られています。人口でいえば南北戦争終結時の約3800万人7600万人へとおよそ倍増しています。余談ですが、南北戦争終結時と同時代の日本の人口も同じくらいで、こちらは1900年には約4300万人へと漸増しています

第一章はそんな時代の感覚そのままにスピード感あふれる筆で飛ばしていきます。ただし一般的には「金ピカ」と呼ばれるこの時代を「褐色」と呼ぶのには、本書が書かれた時代である第一次大戦後という時代、それも当時のヨーロッパのある種のシニシズムと南北戦争後のことを重ね合わせ、そこにある暗さと可能性を重ね合わせているからだろうと思うのです。褐色は文字通りには、この時代に流行したニューヨークのブラウンストーンのアパートメント(高級の含みがある)、同じくウォールナットなどの濃いインテリア(これも同じく高級の含みがある)、アルバート・ピンカム・ライダーの絵画に観られる褐色・・という時代の雰囲気(それを造りだしたのは経済条件かもしれませんが)もあるのでしょう。

「私たちの経験してきた最近の歴史は、戦争が産業と経済の変貌をもたらし、それを促進することを、あますところなく明らかにした。製鉄所の発展、農業の機械化、鯨油から砿油への転換、職制労働組合の成長、汚職、投機、特需によって築きあげられた巨大資本の集中、そして巨大鉄道会社に対する貴重な土地の無条件供与である」(18)という時代に、著者が積極的な価値を見出すのは「だが理解しておくべきことは、当時、場違いで、馬鹿げた、常軌を逸した作品とされ、傍流に追いやられた多くのものが、実際には完璧なる成功であり、発展しつつあるアメリカの伝統の、新たな機運であったということ」(35頁)なのです。

繰り返すなら、建築においては、ヘンリー・ホブソン・リチャードソン、ルイス・サリバン、フランク・ロイド・ライト、それにジョン・ウェルボーン・ルートといった東部の主流派から離れたところで仕事をしていた建築家たちがアメリカ建築史のなかにコンセプチュアルに、生き生きと、組み直されたのはかつてみた通りです。

風景の刷新と題された第二章は、フロンティアが消滅していったこの時代のアメリカのランドスケープについて書かれたものです。「土地というものは、原始的生活条件のもとでこそ大きな影響を及ぼすと考えられている節がある。「文明」が成立した後、すなわち商業、産業、都市が組織された後では、土地の影響力が小さくなっていくように見えるのだ。実際はその逆で、文明の発展とともに土地の重要性は増していく。すなわち利潤と活動のシステムである「自然」こそが、文明化された人間が生み出す重要な創造物のひとつなのだ」という言葉で第二章は始まります。この文章だけでも、ルイス・マンフォードがいかに慧眼であったかが分かろうというものです。

章の前半は主にヘンリー・デビット・ソローらに、後半はフレデリック・ロウ・オルムステッドらについて頁が割かれていきます。「ソローという人物を通じ、ついにアメリカ人の意識のなかに風景というものが入ってきた。もはやそれは潜在的な利用区域でも、共和制の政体に仕える領土でもなかった。それは内面的な宝となったのだ・・」(72)。都市の適地、金鉱、油田探してではなく、「大地を味わ」ったソローによって、それもフロンティアが消滅しつつあった時代(ソロー自身はその先行者)にアメリカの風景が発見されたと読むことも可能でしょう。「肝に銘じておかねばならないのは、ソローの表明した自然主義的・生物学的潮流が、私たちが生きている機械主義的世界よりも、後から始まったことである」(73)

オルムステッドの形成期に影響を与えたのはまず18世紀英国のピクチャレスクの美学、そしてそれに続くジョン・ラスキンであったようです。さらにオルムステッドは太平洋を渡り広東で10年農夫として働いたかと思えば、ヨーロッパを旅し、さらにメキシコや南部奴隷州をもまわっています。「農夫からランドスケープ・アーキテクトへの転身は、考えられる限り最も健全な経過をたどった」(86)

「近代建築へ向かって」の第3章はここではすでに述べたので省略しましょう。

第四章は主に絵画と写真についてです。

絵画ではトーマス・イーキンスとアルバート・ピンカム・ライダーが中心的な人物として描かれています。とりわけライダーは20世紀アメリカ芸術に大きな影響を与えています。さてこのイーキンスやライダーに比べると、「ホイッスラーは、ライダーとイーキンスのあいだで埋没してしまう。技法自体は両者を凌駕していたが、片側の想像力には追いつけず、もう片側の厳しく簡素な力強さには、彼の魅力と能力と国際的知識をもってしても、達すること叶わなかった」(184)と述べられてしまいます。余談ですが、ウィリアム・ル・バロン・ジェニーがパリ留学時代、実はホイッスラーと懇意にしています。そしてそのホイッスラーを介して、同時代の印象派の画家たちとも接近していたことは想像に難くないと思うのです。ジェニーは概して技師寄りの建築家という印象で記述されてきましたが、実は芸術をよく解し、観る目もあったのではないかと思うわけです。このあたりのいわば「ジェニーの神話」も再考の余地があるかもしれません。それから「オーギュスト・ロダンは、褐色の30年の芸術についてこう語っている。「アメリカはルネサンスを経験した。だがアメリカはそれを知らない」(185)のくだり。同時代のヨーロッパの芸術家達もアメリカ芸術の動向に注目しその影響を何がしか受けていたことも、しかし表立ってはそれを言わずにいただろうことも、想像に難くないと思われます。

さて写真です。メモ。「スティーグリッツにとって写真とは、単に映像を撮るだけのことではなかった。それは生命体に対する態度であり、彼の周囲にある人格や力の認識であり、それらを結び合わせ、補足し、論評し、解釈し、その発展の道筋を延長していく企てであった。彼は写真が芸術であるか否かということには関心がなかった。本当になぜこんなことを問題にする必要があるのだろう?結果さえ面白ければ、その名が何だろうと重要ではないのだ。スティーグリッツにとって、写真は近代の経験の主要な要素となった。それは現実性を意味し、光を意味し、人間の人格が周囲の世界に反応することを意味した」「写真におけるスティーグリッツの天命は、建築におけるライトのそれと似ていた」(226-227)

あまりメモや引用をし過ぎると、いささか差し仕えがあるかもしれませんので、この辺で控えましょう。

繰り返しになるかもしれませんが、著者はこの褐色の30年に、続く20世紀芸術の萌芽を読み取り、それも当時傍流とされたであろうものにそれを読み取り、かつ平板な歴史記述ではなくコンセプチュアルで生き生きとしたものとして組み直し、その後のアメリカ芸術史の枠組みに大きな影響を与えたと思えるわけです。そしてこれはまた訳者あとがきでも述べられているように、単にアメリカ近代芸術史というより、実は「「褐色の三十年」は、依然として近代建築史の盲点だとも言えるだろう」(252頁)とも、言えるわけです。確か『コンクリート・アトランティス』におけるレイナー・バンハムも似たようなことを言っていたはずです。

僭越ながら「モンゴメリー・シュイラー(Montgomery Schuyler)」の表記は「(モンゴメリー・)スカイラー」の方がいいと思います。

たいへん誠実に訳されています。

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